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Selfishly

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S,P 3「互いの相手」



スローライフ S 

          Pa 3 「互いの相手」


H18,10/16 02:00



深夜に近くなってのロイの訪問を、
老将軍は 手離しで喜び、自宅に招きいれた。

「すまんなー、マスタング君。
 君がこうして訪ねて来てくれて、
 本当にワシは・・・。」

涙ぐみながら、何度も礼を告げる将軍に
ロイは、気になさらぬようにと労わる言葉を告げた。

「ローゼは ちと体調を崩して早め休んでいるので
 明日にでも紹介しよう。
 
 君も、長旅で疲れたろう。
 今日は ゆっくりと部屋で休んでくれ。」

ロイの案内された部屋は、多分 この屋敷で1番の貴賓室なのだろう。
将軍が どれほど、今回の事で ロイに感謝をしているのかがわかる。

ロイは独りになれた部屋で、やれやれと息を吐き出す。
そのまま横になりたい気分だったが、
ふと目に入った電話をみると、慌しく出た夕刻の事を思い出す。

『エドワードは、今頃何をしているだろう・・・』

そんな事を考えていると、手は自然にダイヤルを回している。

もう、寝ているだろうか?
それとも、本でも読んで また夜更かしをしているのだろうか?

呼び出し音が鳴っている間、ロイはあれこれと考えては
愛しい人の声が聞こえるのを うきうきしながら待っていた。

3回、4回・・・。

『席でも外しているのか?』

10回、11回とコール音だけが虚しくなり続ける。

『もしかして、もう寝ているとか・・・。』

鳴り響くコール音を聞きながら、チラリと備え付けの豪奢な時計に目をやる。

確かに 早いとは言えない時間だか、
かと言って、遅すぎる時間でもない。
これまでにも、今以上に遅くに電話をかけた事も
何度もあった。
が、いつもなら 数回もせずに出てくれていたのに・・。

鳴り響く呼び出し音を聞き流しながら、
まさかと言う1つの答えが頭に浮かぶ。

『まさか、家に居ないとか・・・。』

そのロイの不安を肯定するように 呼び出し音は
取ってもらう相手を虚しく呼び続けている。

ロイは、呆然と 手に持った受話器を眺める。




大音響が鳴り響く会場は、今 エドワード達が立つ入り口より
数階低い位置で開かれている。

大抵の事では 物怖じしないエドワードだが
目の前に広がる異様な(と彼が感じる)光景には
たじたじと尻込みを見せて、足が1、2歩ずり下がる。

先に階段を折り始めていたレイモンドが それに気づき
階下の途中で振り返って、エドワードの手を引く。

「レイ・・・。」

もの問いたげなエドワードの呼びかけに
レイモンドは 大丈夫だと言うように頷いて
手を引いたまま階段を降りて行く。

その光景に目ざとく気づいた者から、
傍にいる者に告げていく。
驚くほどの速さで会場に居る者がエドワード達の到着に気づいて注目する。

もともと、ディビット達が 今日、彼らが参加する事を触れ回っていたから
今日の参加者は いつも以上の人ごみとなっていた事も有り、
早くから、エドワード達が来るのを今か今かと窺っていた。

「ちょっと・・・。」
「ええ・・・。」

騒然としていた会場が、急にひそやかになる。
小さく囁かれる驚きの声や、感嘆の声。
うっとりと 二人の登場のシーンを眺めているもの。

そこには、彼ら彼女が 羨望するような1シーンが展開されていた。
始めて参加した物慣れない彼女をエスコートするように
手を引きながら ゆっくりと階段を二人で降りて行く。

いつも元気で威勢の良いエドワードだが、
初めての参加で緊張しているのだろう
普段の活発な感じがなりを潜めて、
物憂い雰囲気が、中性的な魅力を引き立てて
見る者に 危うい誤解を持たせる。

レイモンドと言えば、こちらは 文句の付けようも無い
貴公子然とした 完璧なエスコートぶりで、
何度も振り返っては エドワードに気をつけるようにと促しながら
階段を降りている。

「おーい!
 エド、レイ こっちだー!」

そんな会場の雰囲気に飲まれない豪胆な友人は
盛大に手を振って、エドワード達に場所を示す。

「ディ、アル・・・。」 馴染の顔を見て気が緩んだのか
エドワードは ホッと緊張を溶いて、手を振る二人に笑顔で返す。
その微笑に、周囲が また騒然としていたのだが、
エドワードは 全く気づかずに、さっさと彼らの元に歩いていく。

「よぉ、えらくきまった格好してきたなー。」

感心するように言われた言葉に、エドワードは そうかな?と
自分の格好を見る。
レイモンドに言われた通りに着ただけで、
確かに スーツ姿は 大げさかと思ったが、
来てみれば 皆ではないが、男性は ラフなスーツを着ている者も多い。

「本当に 見違えたよ。
 そのスーツ、エドに良く似合ってるね。」

人好きのする笑顔を浮かべながら、隣に座るアルバートも
エドワードを褒める。

「レイも、そのスーツ
 エドとお揃いなのか?」

デイビットが不思議そうな表情で、二人のスーツを代わる代わる見比べる。

「いや、別に揃いではないが、
 元々 同じメーカーのスーツだからな。」

要するに、パターンは違うが 同様のコンセプトで作られているという事だろう。

なるほど、と頷く二人に
レイモンドも それ以上の言葉は告げずに済ます。

エドワードのスーツを選んだ時に、
たまたま、パターン違いの同メーカーのスーツを自分が持っている事に気がつき
レイモンドは そのスーツを着る事にした。
エドワードのスーツと違い、
上着の丈は 腰までの短いもので、
すそが細くなっているタイプだ。
スラックスは 同色の幅広の布地製の帯を使って締めるようになっており、
スリムなズボンが、スタイルの良さを引き立てている。

丈の長いエドワードのスーツと並ぶと、
華奢なエドワードの体型と相まって、
揃いのスーツを着こなす紳士淑女のように見えない事も無い。

レイモンドが、エドワードに飲み物を取ってくると席を外している間、
二人が エドワードにパーティー参加の感想を聞いている。

「なんか、すっごい音量で驚いた。」

素朴な感想に、二人が 苦笑を浮かべる。

「エド、そうじゃなくてー
 ほれ周囲を見てみろ。

 結構、美人が多いだろうが。」

ディビットに促されて周囲を見回すと、
確かに 普段、大学で見慣れている姿とは
ちょっと違う。
皆が皆、綺麗に化粧を施しており、
服も おしゃれな感じがしている物が多い。

「そうだな、皆 いつもと感じが違うよな。」

感心したように返されるエドワードの返事に、
ディビットが焦れったさそうに
言葉を足そうとした所にレイモンドが戻ってくる。

「エドワード。」

差し出されたグラスを受け取りながらエドワードが礼を告げる。
中身は ソフトドリンクだ。
自分用には、カクテルの入ったグラスを持って、
当然のようにエドワードの横に座る。

牽制をかけるように、二人を見るレイモンドに
ディビットとアルバートは、やれやれと言うように
首を振りながら、それぞれを待つ女性の元に出かける。


「あんなにベッタリとくっついてたら、
 エドワードの知り合うチャンスが減るぜ。」

「う~ん・・・。
 レイは、それをあんまり望んでないようだけどね。」

「っても、せっかくのダンスパーティーなんだぜ、
 互いに色々と知り合う機会を増やしてだな、
 この期に、可愛い彼女を持つってチャンスもありなわけだ。」

「ディ、 二人の事はほっておきなよ。
 それに、君に心配してもらわなくても
 彼らなら、ディと違って、十分 機会が溢れてるはずだから。」

忠告のように告げられた言葉に ディビットがふと首を捻る。

「なんか、その言い方だと
 俺には 機会が少ないって言ってるように聞こえるけど。」

不満をつぶやくディビットに、それは君の考えすぎだよと
笑いながら ダンスフロアーにディビットを急がせる。

『そう言えば、ダンスの練習は どうしたんだろう・・・。』

そんな事が アルバートの頭の片隅で浮かんだが、
鳴り響く音楽に乗って、どこかに流されて行った。




ディビットとアルバートがフロアーに出て行き、
残された二人組は、物珍しそうに周囲を眺めているエドワードに
レイモンドは 彼の好奇心が一段落するまで
急かせる事もなく、落ち着いてグラスを傾けている。

「ふーん、最初はビックリしたけど
 村のカーニバルみたいな雰囲気だよな。」

「エドワードは、結構 カーニバルには参加していたのか?」

「いんや、村にいる頃は 小さくて夜は参加させてもらえなかったから
 たまに、旅の途中で祭りをやってる時にあたると
 こんな感じの賑やかさだったのを覚えている位。」

旅から旅で過ごしていた彼らの道中では、
たとえ祭りが開かれていても、そこで楽しむ事等
なかった事だろう。

「そうか。
 なら 自分で参加してみるのも
 案外と楽しいと思えるかも知れないな。」

そう告げながら、微笑んで手を差し出す。

「?」
不思議そうに差し出された手を見返すエドワードに
レイモンドが 言葉を足す。

「練習するんだろ?」

そう言われて初めて、自分が 何故ここに参加したのかを思い出す。

フロアーで踊る人たちを眺めて、差し出されて手を見る。
躊躇いがちに、エドワードが手を出すと、
そらとばかりに、強引に立ちあがらさせれる。

レイモンドは いきなりフロアーには出ずに
会場の死角になっている人の少ない場所に行くと、
エドワードにダンスのホールドから教える。

「エドワード、正式なダンスタントでもないから
 そんなに形式ばる必要はない。

 相手に添えるように片手を腰に添えて、
 もう片方を手か、もしくは 肩に添えればいい。」

レイモンドが 告げながらエドワードに手を添えると
おずおずとエドワードも、レイモンドに手を回す。

「ワルツは 3拍子が普通なんで
 後は それに合わせて足を動かせば大丈夫。」

いくつかの足運びをレイモンドが説明をしながら
エドワードに行わせる。
慣れない事ながら、もともとの運動神経が良いエドワードだから
何回か繰返す度に コツを掴んでいく。

「そう、ずいぶん良くなった。
 後は、そのパターンを組み替えて音楽に乗って動くだけだ。」

本来は男性側がリードするダンスだが、
今の二人の場合、パートナー役に回っているレイモンドが
さりげなく動きをリードする。

「で、ターンの場合は 重心を置く足に体重をかけて
 腰から回すように身体を動かせる。」

レイモンドが エドワードをリードしながら、
ゆっくりめのターンを行なう。
教えられたとうりに、綺麗な形でターンを決めて
エドワードは嬉しげにレイモンドを見上げる。

「OK! 上出来だ。
 じゃあ、流れからターンを組み込んでやってみよう。」

エドワードが、気合を入れるように姿勢を正して
ホールドをする。
音楽の乗りやすい箇所で足を運び、
教えられたパターンを何通りか組み替えてみる。
ちょうどコーナーにきた時に、教えられたとうりに
ターンを行なって位置を返る。
その後も、ぎこちなくなる時もあるが
概ね、スムーズに足を運ぶ。

練習に必至になっていたエドワードは気づいていないだろうが、
男性二人組みで ダンスを練習しているエドワード達は
会場の注目の的となっている。

「アル・・・」
「ディ・・・」

互いのパートナーと手を繋ぎながらも、
二人は 呆然と 事の成り行きを見て唖然としていた。

「まさか、本当に ここで練習するとは・・・。」

「うん、何と言うか レイモンドも すごい度胸があるね。」

的違いな褒め言葉を呟くアルバートに、
ディビットは 複雑な表情で、アルバートを見る。


そんな周囲の思惑も気にせず、
練習する二人は、どんどんと上達を見せている。

「エドワード、そろそろ場所を変えて本番で踊ろう。」

レイモンドが そう言いながらエドワードの手を引くと、

さすがに、正式に踊るのに男性同士は おかしいのではと
エドワードも 戸惑い気味にレイモンドを見返す。

「大丈夫だ。
 正式なパーティーでは ご法度だが、
 それ以外では、結構 余興も兼ねて男性同士が
 踊る事も良くある。」

レイモンドに そう言い切られると、
何とも言い返せずに、エドワードは そのままフロアーにまで
連れて来られる。

確かに、いきなり見ず知らずの女性と踊れと言われても
エドワードには、そんな度胸は今の所ない。

二人が フロアーに参加する様子を見せると、
今まで遠巻きに様子を窺っていた者達も
色めきたって参加をする姿勢を見せる。
練習が終われば、彼らが フロアーで踊るときには
自分達がパートナーに選ばれるチャンスにもなる。
先を急いで、エドワード達に近づこうとやっきになっている
女性軍を横目に、エドワードとレイモンドがホールに立って
ホールドの体勢を取るのを、皆が 驚愕の思いで見つめる。

楽団も、注目の的の二人が参加する様子に
次の音楽を止めて待っていたが、
パートナーを変えずにホールドを見せるエドワード達に、
戸惑いながらも 演奏を開始する。

ゆっくり目に流れる曲は、初心者でも馴染有るワルツ曲だ。
ゆっくりとだが、しっかりとした足運びでダンスを始めたエドワード達に合わせて
周囲の者も 同様に踊りだす。

初心者のエドワードをリードしながら女性パートを踊るレイモンドは
誰が見ても 一流のパートナーぶりだ。
エドワードが 出遅れる時にはさりげなくフォローを囁き
次のシーンに繋げる。
ターンをする度に、広がるエドワードの金糸の髪と
深緑の裾が 綺麗な光跡を閃かす。

不思議な光景ながら、見ている者を うっとりとさせるような情景だ。
1曲目、2曲目とパートナーを変える事無く踊っていくうちに
エドワードも だんだんと慣れて、相手を省みる余裕ができる。

「サンキュー、レイ。
 なんか、だいぶん 踊れるようになってきた。」

「ああ、さすがはエドワード。
 素晴らしい上達ぶりだ。」

二人は 楽しそうに会話をしながら、スムーズな足運びで
踊る人の波をくぐり抜けていく。

そんな様子は、まるで1枚のパネルのような完成された情景を見せ
お似合いの一対の二人の様子に、ダンスの申し込みを告げるだけの
勇気を持つ女性は なかなかいない。
皆が、がっくりと尻込みしながら遠巻きに
似合いの二人を見続けている。

続けて踊るうちに、息が上がってきたエドワードをみて
レイモンドが この曲で休憩に入ろうと告げる。
エドワードも、頷いて 曲の終わりできちんと礼をして終わる。

ダンス上で曲の終わりの礼は、そのパートナーとの
ダンスの終了を示す。
二人して、席に戻ろうとした時に
ふいにエドワードに声がかかる。

「エドワード、次は 私と踊ってくれる?」

エドワードが掛けられた声に驚いたように振り返ると
そこには、先日 盛大にエドワードに告白してきた
フレイア・カーネルの姿があった。

深紅の髪に、黒いフォーマルドレスを着た彼女は
まるで黒薔薇のような艶やかさを見せている。

全くの見知らぬ女性でもなかった為、
エドワードは 少し躊躇った後に了承を告げる。

喉を潤してからと 飲み物を取りに行ったエドワードの背を見ながら
残された二人は、表面上にこやかに会話を続ける。

「余興としては 大変、面白かったけど、
 独占するのは どうかしら。」

「振られても尚、追いかける女性が居るとは
 エドワードも 男冥利につきる事でしょうね。」

「あら、それは 私の事?
 あなたも、御同様に見受けられますけど。」

わかっているぞと言う風に、口の端を綺麗に上げて
微笑みの形を作るが、
フレイアの目は、笑ってはいない。

「それが何か?」

同様に微笑むレイモンドの瞳も、冷たく冴え渡っている。

否定もせずに返してくる男に、
笑みを消して、相手を検分するように見据える。

その場にエドワードが 戻ってくると
フレイアは、もう レイモンドの事は一顧だにせずに
嬉しそうにエドワードと手を取り合って、フロアーに出る。

これもまた、似合いの華やかな一対が 軽やかに踊りだす様子を
レイモンドは、押し殺した感情を浮かべずに穏やかに微笑み、
そして、その瞳だけは 隠し通せぬ感情を閃かせながら
踊る二人を見続ける。

そして、エドワードが 女性と踊り始めたのを契機に
レイモンドにも 次次と誘いがかけられる。
断るのも面倒で、表面上は 丁寧に相手をして行くが
瞳は、常に 楽しそうに踊る 二人の様子からは離れる事が出来なかった。

そして、それぞれの思いを乗せて、ダンスパーティーの夜は更けていく。



ロイは寝不足気味の頭を振るようにして起き上がる。
昨日は あれから何度か電話をしてみたが、
エドワードが出てくる事はなかった。

多分、友人達に誘われて出かけているのだろうとは
思っても、漠然と湧き上がる不安や不快感は消えようも無い。
以前のように、エドワードが 自分に黙って、
また姿を眩ますとは思ってはいないが、
幼少期から、何かとトラブルを背負い込む彼の事だ、
何か面倒な事に首を突っ込んでいないとも限らない。
ロイは、すぐにでも返りたい心境を抑えて
老将軍に連れられて、ローゼ嬢に逢うべく部屋に向かう。

「ローゼ、入っても構わないかね。」
老将軍が ノックと共に声をかける。

「はい、どうぞ。」

優しげな声が届いてくる。
老将軍は、ロイを誘って部屋に入っていく。

そこには、日当たりの良いカウチに横になる清楚な女性の姿が目に入る。

「まぁ・・・。」
驚くように目を瞠り、慌てて起き上がろうとする彼女を
ロイは、素早く寄って 静かに押し留める。

「お久しぶりですね、ローゼ様。
 体調が おすぐれ出ないとお伺いしてお見舞いに来ただけですから、
 そのままでどうぞ。」

静かにローゼを寝かしつけて、捲れた上掛けをかけてやる。

ローゼは、驚きと喜びに 紅潮させた頬が、
本の少しだけ、彼女に生気を生み出させている。

「まぁ、わざわざ ありがとうございます。

 折角のお越しに、本当にお恥ずかしい格好を見せてしまって。」

申し訳なさそうに謝るローゼに、ロイは 優しく微笑む。

「いえいえ、体調がお悪いと聞いたのに
 無理に御逢いしようとした私が悪いのです。

 お嫌でなければ、少しだけお話をさせて頂いて構いませんか?」

以前なら、女性殺しと異名を取っていた 極上の微笑で
目の前のけなげな女性に微笑みかける。
ローゼは、年頃の女性らしく うっすらと頬を染めたまま、
嬉しそうに頷く。

そんな二人のやり取りを、嬉しそうに見ていた老将軍は
静かに扉を閉めて出て行く。

小1時間程で、ローゼの容態を慮ってロイは辞退を告げる。

「今日は わざわざ、本当にありがとうございました。
 高名な マスタング将軍とお話できた機会に恵まれただけでも
 本当に幸せでした。」

老将軍の話したとおり、ローゼ嬢は控えめな賞賛に値する精神の持ち主のようだ。
自分の事で多くを望まない姿は、ロイに ふとエドワードの事を思い出させる。
自分の幸せには とことん関心を持たないようにしていた昔の彼の姿と
ローゼの控えめな姿は、面立ちは全くと言って良いほど似ていないのに
何故か、過去のエドワードを共通している点が見える。

ロイは、自分でも驚くくらい優しい声で
ローゼに話しかける。

「私は これからも、東方にしばらく来るようになるのですが、
 もし、貴方がお嫌でなければ こうして逢いに来させて頂いても
 構いませんか?」

「マスタング様・・・・。

 もしや、祖父が 何か無理なお願いをしたのでは・・・。」

聞いていたとうり聡明なのだろう。
忙しい事は、自分の祖父以上のロイが
こうして東方に足を運ぶような事が、そうそうあるわけが無い。
それを察した時に、もしやと考えが浮かぶ。

躊躇いがちに、尋ねてくるローゼの聡明さも
ロイには 馴染が深い感覚だ。

ロイは、優しく微笑みながら 僅かに首を振ると、

「いいえ、将軍のお話は聞いておりませんが、
 これは、私の希望です。

 もし、ご迷惑でしたら ご無理は言いません。

 ただ、少しでもお時間を頂けるなら
 お体の調子の良いときに、少しだけでもお顔を拝見させて
 頂ければと言う、私の願いです。」

そう優しく微笑まれて告げられるロイの言葉に、
頷かない女性は居ないだろう。
ローゼも、信じられないと言う思いを浮かべながらも
呆然と頷く。


ローゼ嬢の私室を辞去したロイは、
すぐさま 老将軍に断りを入れ、セントラルに帰る旨を伝える。
老将軍の厚い礼の言葉も そこそこで
ロイは 急いで、エドワードが待つセントラルに戻る準備をする。

もしかして、まだ帰ってはいないのではと思う不安を抱えながら
ホームから電話をかけると、
今度は ほどなくエドワードが電話に出てくれる。

それに、ほっと安堵を浮かべて、帰宅の時間を告げると
エドワードが 嬉しそうに、駅までの出迎えを告げてくれた。

『大丈夫だ。
 エドワードと私は、今までと変らず居られてる。』

そう思うことで、自分の中にある焦燥感を消していく。
 
『帰ったら、昨夜の不在の理由を聞こう。

 きっと、ディビット達と出かけていただけだろう。
 それをエドワードの口から聞ければ
 私の この不安も消えるに違いないから・・・。』

ロイは、逸る気持ちを抑えながら エドワードの口から
語られる言葉を聞くのを願っていた。

聞けば 解消されると願っていた思いが、
更なる、焦燥感を募る事になろう事は
今のロイには、わかるはずもなかった。


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